横山国大七不思議 作 虹川 京解決編それから十分後、ミス研のみんなは野音に集まっていた。三ツ沢上が心配そうに僕に聞いてきた。 「綸太郎さん、何ですか?いきなりみんなを野音に呼び出したりして。まさかミス研メンバーの中に犯人がいるとか言うんじゃないでしょうね」 僕は少し間をおいてはっきりと言った。 「そのまさかだよ。三ツ沢君。保土ヶ谷駆を殺した犯人は、このミス研メンバーの中にいたんだ!」 「ねえ綸太郎、その保土ヶ谷君を殺した犯人って一体誰なの?」 未来が不安そうに言った。 僕はミス研のみんなの顔をぐるりと一周見渡した。 そして、言った。 「それは…おまえだよ、常盤」 僕がそう言った瞬間、みんなの目線が常盤に集中した。常盤の顔はあきらかに青ざめていた。しかし、その次の瞬間、常盤は笑顔で僕に語りかけてきた。 「な、なんで俺が保土ヶ谷を殺さなきゃなんないんだよ。たしかに、俺はあの日の昼間に保土ヶ谷と口論になったけど、そのあとちゃんと仲直りしてただろ?あいつとは競馬をしに遊びにいく約束までしてたんだぜ」 「本当におまえは保土ヶ谷から競馬を見に行こうって言われてそれをOKしたのか?」 「ああ、したさ」 僕は続けて聞いた。 「そして本当に保土ヶ谷と一緒に競馬場に行ったのか?」 「だから何度も言ってるだろ!俺は先週の日曜日、あいつと一緒に競馬場に朝から行ったんだよ。保土ヶ谷が中山競馬場で買った馬券と、スポーツ新聞からもあいつの指紋が出てるんだろ!これこそ俺とあいつが一緒に競馬場に行ったっていう証拠じゃないか!」 常盤は自信満々に言った。 「そうか、残念だよ、常盤。やっぱりおまえが犯人だったんだな。おまえは今の言葉で自分が犯人だと証明してしまったんだよ」 「な、なんだと?ど、どういう意味だ!」 常盤は完全にわけがわからないといった感じだ。 「未来、彼女を連れてきてくれないか?」 僕が未来に頼むとすぐに、未来は保土ヶ谷の彼女、星川さくらさんを連れてやってきた。 僕は彼女に質問をした。 「一つお尋ねします。あなたは先週の日曜日、保土ヶ谷と競馬を見に行く予定だったんですか?」 彼女は首を振りながら言った。 「いいえ。私も駆もギャンブルは大嫌いなんで競馬場なんて行くはずがありません」 「は?どういうことだ!あいつは確かに言ったはずだ!どの騎手が人気があるかとか、賭け方を教えてくれとか。そうだ、本当は彼女と行く約束だったけど、彼女がその日用事が出来て行けなくなったとか言ってたぞ!じゃあ、あんたは保土ヶ谷とどこに行く予定だったんだ?」 彼女はうつむいてぽつりと一言つぶやいた。 「ドコモショップです」 一瞬の沈黙の後、真知子が思わず声を漏らした。 「そっか!そういうことね」 僕は話を進めた。 「真知子はもうわかったようだな。常盤が聞いた、『どの騎手(ヽヽ)が人気があるのか。賭け方(ヽヽヽ)を教えてくれ』は本当は、『携帯のどの機種(ヽヽ)が人気があるのか、携帯の電話のかけ方(ヽヽヽ)を教えてくれ』という意味だったんだ。つまり、保土ヶ谷は常盤を競馬に誘ったのではなく、ドコモショップに行こうと誘ってたんだ。あいつは携帯を持ってなかったから、おそらく携帯を買う予定だったんだろう。前から欲しがってたしな。そして、そんな競馬に行く気なんて全く無い保土ヶ谷と、競馬が嫌いな星川さんが競馬場に行く約束なんてするはずがないんだよ。だから、星川さんが行けなくなったからといって、お前(ヽヽ)と(ヽ)保土ヶ谷(ヽヽヽヽ)が(ヽ)競馬場(ヽヽヽ)に(ヽ)行く(ヽヽ)こと(ヽヽ)なんて(ヽヽヽ)ありえない(ヽヽヽヽヽ)んだよ。なのになぜ、お前は存在するはずのない保土ヶ谷が買った馬券やスポーツ新聞を持ってるんだ?その辺をきちんと説明してくれよ、常盤」 「…いや、でも俺は…」 常盤は苦悶の表情を浮かべていた。 「野音の噴水の周りはたくさんの血が飛び散っていた。お前がなんと言おうとお前の衣服や靴からは、調べればルミノール反応が検出されるはずだ」 僕がそう言うと常盤は、その場にぐったりとひざをついた。 「くっ、せっかく自分が保土ヶ谷と競馬場に行っていたことを証明しようとして、その後のアリバイを手に入れるために用意した物なのに、逆に墓穴を掘っちまったな。確かにやったのは俺だよ。あの日の朝、保土ヶ谷と会ったときにすぐに眠らせたのがいけなかったな。少しくらい話していればこんな馬鹿な勘違い、すぐに気づいただろうに。俺の犯行はこうだ。まず眠らせた保土ヶ谷を俺の家まで連れて行き、監禁。それからすぐに競馬場へ行き、馬券と新聞を購入。それから、自宅へ戻って馬券と新聞に保土ヶ谷の指紋を付けさせ、眠らせておいた保土ヶ谷を野音で殺害。わざわざ野音で犯行を行ったのは国大七不思議にかけるためさ。そっちの方がより美学的だろうと思ってね」 「ふざけるのもいい加減にしなさい、常盤。犯罪に美学なんてものは存在しないわ」 真知子は心の底から怒っているようだ。 「そもそも、なんで保土ヶ谷君を殺したりしたの、常盤君!」 未来が叫ぶように言った。 「あいつには、昔からむかついていたんだ。俺がすること一つ一つにいちゃもんを付けてきやがる。俺が付き合っていた彼女をあいつが奪った事だってあった。そしたら一ヶ月もしないうちにその子を捨てて、今じゃさくらとかいう別の子と付き合っていやがる。正直、我慢の限界だった」 「それでも、人には人を殺す権利なんて誰にも無いんだよ」 真知子が悲しそうに、そして諭すように言った。 ミス研のメンバーたちは皆、常盤を見つめていた。そこに三ツ沢下が思い出したように僕に質問をしてきた。 「じゃあ先輩、あのトランプのダイイングメッセージは何だったんですか?」 「ああ、あれは犯人がミス研内の人間だと仮定して考えると一つしか考えられない。保土ヶ谷ももっとマシなメッセージを残してくれればよかったのにな。あれはおそらく、KA=経営。つまり犯人はミス研で唯一の経営学部の人間である常盤だって言いたかったんだと思う。保土ヶ谷は殴られて薄れ行く意識の中で僕たちにこのメッセージを残したんだ」 「そっか、うーん、でもそれってまるでギャグじゃないですか」 三ツ沢の一言でみんなの顔に笑みが戻ってきた、と思った刹那、常盤が隠し持っていたナイフを取り出し、未来ののどに突きつけた。 「く、来るな!近寄るとこいつの命はないぞ!こんな馬鹿な話が信じられるか!おれは信じない、信じないぞ!」 常盤は完全に正気を失っていた。そして常盤は未来を人質にしたまま、電子情報工学科の講義棟へと入っていき、とうとう屋上まで登りつめた。 「さあ、どうする綸太郎。未来の命がどうなってもいいのか?」 相変わらず常盤のナイフは未来の首元へと向けられていた。どうしよう…。こんなとき、よくある推理小説では探偵が犯人に命の大事さについて語ったりして、うまいぐあいに犯人が納得してくれたりするのだが、今の僕には何の言葉も思いつかない。やばい、どうする。何かいい方法はないか。と、次の瞬間、僕はありえないような行動をとった。 「あーっ!」 僕は右手で前方右側を指差しながら思いっきり叫んだ。それは一瞬の出来事だった。その場にいた全員が、僕が指差した方向に一斉に注目した。もちろん、常盤も。僕はその隙をついて常盤が持っていたナイフを蹴り上げた。ナイフは常盤の手のひらから落ち、常盤はすぐに皆に囲まれ取り押さえられた。そして、ちょうどそのとき真知子が呼んでくれていた警察がやってきて常盤は連行された。かくして、事件はなんとか無事一件落着したのであった。 * その後、僕と未来はまだ電情棟の屋上にいた。時刻はもう午後六時を回ろうとしており、夕焼けがとてもきれいだった。 「ねえ見て綸太郎。夕焼けがとってもきれい」 髪を掻きあげながら、未来は僕に笑顔で話しかける。 「わたしね、綸太郎が助けてくれたとき、とってもうれしかったよ」 夕焼けに赤く染まった彼女の笑顔は、この世の何よりもかわいらしく見えた。 「なあ未来、国大七不思議の七番目って何だか知ってるか?」 「え?知らないよ?」 僕は未来の目を見つめながら言った。 「電情棟の屋上で告白すると、必ず恋が実る」 言っちゃった。これはもう告白以外の何者でもない。ある意味、僕はあなたのことが大好きです、というより効果的かもしれない。なんてことを考えながら自分の世界に入っていると、 「え?どーゆーこと?」 返事らしき言葉が返ってきた。ん?この子、何も気づいてない?えーい、もうこうなりゃやけくそだと思い、僕はストレートに言った。 「僕は未来のことが 」 それは正にピッタリのタイミングだった。僕たちの頭上を自衛隊のヘリが轟音とともに駆け抜けて行った。おそらく一番大事な部分は確実に聞こえていないだろう。 「え、何?よく聞こえなかったんだけど…」 やっぱりそうだ。僕はもうどうでもよくなってきた。テンションも急降下してきた。 「じゃあ、もう帰ろう」 そして僕と未来は何事もなく電情棟の入り口から外へ出た。ちょうど、そのときだった。未来が僕に向かって何かをつぶやいた。もしかするとあれは僕の気のせいだったのかもしれない。でもあの時、僕には確かにはっきりとこう聞こえたような気がしたんだ。
私も好きよ
って―。
完 作者あとがきすいません、読み返してみると、ただのラブコメでした(笑)こんな稚拙な文章を読んでいただいた読者の方々、どうもありがとうございました。 正解者の紹介・ばく さん(教人・4年)
すばらしい解答をどうもありがとうございました!これからも横国ミス研をどうぞよろしくおねがいします! |